国内向けシグナスXに台湾シグナスのメーターを取り付けるための何か。

 

余計な前置きはいらねーよって人はこちら。

 

・開発経緯

他車種でお世話になっている友人が、純正でタコメーターが付いている
台湾シグナスのメーターを国内向けの車体に流用したいとのこと。
Webで得た情報では、同じ事を画策する人もそれなりにいるみたいです。
けれども人づてとか予測とか微妙な情報ばかりで成功にたどり着いたという
核心的な情報は見つけられませんでした。

んじゃ、いっちょやりますか!
いつもお世話になっている友人に報いる絶好の機会です。  試行錯誤も楽しそうだし・・・。

・キーワードは「逓倍」?

友人の調べた情報では、点火コイルの1次側に台湾メーターをつなぐと
実際の1/2の回転数を表示するみたい。
んじゃ、単純に信号の数を2倍に増やせば良かろうということで逓倍回路を使うとイイんじゃね?
と、いうことらしい。

教えてもらった参考URLにあった回路を見ると、ExORロジックICを使った教科書的な
回路だったので手持ちの部品でさっくり作り上げ、それ単体では特に問題なく動作することを確認。
逓倍回路外観

シグナルジェネレータで作り出した波形(黄色)に対して、2倍の波形が出力されています。
逓倍回路動作画像


 ↑ 逓倍回路実験動画、色々な波形を入力して正しく動作するか確認しました。
結果、とても良好な動作を見せています(2014/07/15動画追記)

ところが完璧に見えたこの回路をつないでも台湾メーターの針はピクリとも動かないのでありました・・・。

そりゃそうです、メーター側の仕様を一切無視して適当な信号送り込んだって 動くわけがありません。
動かないどころかメーターを壊してしまう危険だってあります。
特に点火コイルの1次側から直接信号を取るなんて私に言わせれば正気の沙汰ではありませんね。
一瞬とはいえ数百ボルトの電圧が掛かりますから、メーター側の回路を破壊する 可能性も十分ありえます。

Webの情報を鵜呑みにして余計な資材と時間を浪費してしまったぜぃ。
と、いうことでWebに溢れるいい加減な情報は当てにせず、メーターの仕様から解析して
独自の方法で進めていくことにしました。

※参考URLの逓倍回路は、とあるモーターの出力する高速パルスに追従できる仕様で設計されています。
シグナスのタコに向かないだけで、とても良く出来た回路です。
そもそも、「点火コイルに直接メーターをつないだら1/2の表示が得られたから、単純に2倍しようっ!」
という安易な発想自体が根本的におかしいのですから。

・メーターの解析と考察

まずはコネクターの解析。
メーターアッシをしばらく借りて、逓倍回路を試す前からある程度調べておきました。
コネクター配線図

どうやらタコ信号はオープンコレクタで受けている様子です。
タコ信号線がグランド電位に落ちる事でパルスをカウントしているみたい。
実験中の図
 ↑ 実際のメータを繋いで実験中の図

シグナルジェネレータを接続して、メーターが認識可能なパルス幅を実測します。
結果、約1.9ms以上のパルス幅がないと信号として検知しない様子です。
試作した逓倍回路のパルス幅は0.1msでしたからメーターの要求するパルス幅には
全然足りませんね、動かなくて当然です。

ここでちょっとした疑問が残ります。
なぜ、点火コイルの1次側から信号を取ると1/2の回転数で動作するのか?

これは点火コイルの信号をオシロスコープで観測するとすぐに理由がわかります。
点火波形
 ↑ 高電圧が予測されるため高耐圧プローブで計測。(0.5v/Div x100プローブ = 50v/Div)

常時バッテリー電圧が掛かっていますが、点火の直前にグランド電位になっています。
このとき流れる電流の逆起電力で数百ボルトの電圧を発生させ、2次コイルでさらに
昇圧してプラグを点火しています。
グランド電位の時間=通電時間はECUからコントロールされていますが、一般的に
3~5msに設定されているため認識できる信号としてメーターが処理したのでしょう。
シグナスXは捨て火せず2回転1点火であることから実際の1/2の回転数を示したようです。
しかし、一時期的とはいえ数百ボルトに達する信号を電子回路に入力して安全とは考え辛く
メーター信号の取得位置としては不適切と判断します。

んじゃどこから信号を取るか。
比較的安定した信号がとれそうな、ピックアップコイルを計測してみます。
ピックアップ波形
 ↑ 1回転11パルスの波形を得ることが出来ました。
※30°毎に突起が有り12分割なのですが、1カ所だけ60°間隔の場所がありタイミングを検知している様子です。
こいつをうまく整形してカウントすれば正確な回転数が表示できそうです。

・回路設計

パルスのカウントは8bitマイコンを使用することにします。
いまどきロジックで組むよりマイコン化した方がコスト的にもスペース的にも有利です。
マイコンでカウントする場合、ノイズによる誤動作に注意せねばなりません。
動作電圧以上の信号が入力された場合でも回路に損傷を与えないように、ダイオード
クリップで保護し、入力段はゲートICを使ってしっかりとした方形波を作ります。
回路図
 ↑ まずは机上の理論で回路図設計。

電子工作は理論通り動かないことも間々あるので、ブレッドボードを使ってしっかり検証します
ブレッドボード
パルスジェネレータとオシロで不具合がないか色々なパターンで試します。
結果、ローパスフィルタの時定数を若干調整。

その後、実機のメータを接続して問題なく動作することを確認しました。
動作波形
 ↑ 作成した基板にパルスを入力(水色)すると6分周された矩形波(黄色)が出力されます。

んで、基板に実装して完成したのがこいつです。
完成基板
マイコンでは6パルス毎にポートを反転する処理を行い、デジタルトランジスタを駆動。
デューティー比50%の綺麗な方形波をメーターに伝えます。
プログラムはシンプルにメインルーチンでは何もせず、ピックアップコイルからの信号で
割り込みを発生、割り込み内でフラグをインクリメントし、6になったらポートを反転
させるだけのもの。Basicで記述すれば10行程度です。
市販の汎用タコメータにありがちな、プラグコードに巻き付けるタイプと違って非常に安定した
出力を得られるのが特徴、針が暴れたりすることは皆無です。
動作実験
 ↑ 完成基板実験の図。 動作良好!

 


・作ってみる?

部品代は1000円に満たないリーズナブルな構成です。
ただし、初めて電子工作をするといった人には初期投資が高く付くと思います。
マイコンに書き込むためのライターや、感光基板を作るためのエッチングセットなどを
ゼロから揃えると相当なコストが掛かるでしょう。

・回路図

  回路設計の項をご覧くだされ。

・プリント基板
マスクパターン
  上のPDFを等倍印刷してエッチングしてください。
  パターン面から見たマスクです、反転の必要はありません。
  作りやすいようにラジアル・アキシャル部品で設計しましたが
  面実装部品なら1/2以下のサイズに出来そうですね。

・プログラム

  PICライターを使って下のプログラムバイナリをPIC12F675に書き込みます。
  12F675に特化したコードなので12F629とかに焼いても動きませんので注意してください。
  ※PICのプログラム書き込みについてはこのあたりを参考にどうぞ。

  プログラムバイナリ(HEX) 12F675.HEX

  PICライターによってはコンフィグレーションワードをうまく読み取れない場合があるので、
  その場合は次の設定を参考にしてください。

   コンフィグレーションビット

・ネットリスト

部品番号 部品区分 種類 部品名称・値 パッケージ 部品単価
R1 レジスタ 炭素皮膜 1/4W 1kΩ アキシャル ¥1~10
R2 1/4W 1kΩ ¥1~10
R3 1/4W 1kΩ ¥1~10
R4 1/4W 10kΩ ¥1~10
C1 コンデンサ 電解 16V 47μF ラジアル ¥20~50
C2 積層 50V 0.1μF ¥10~30
C3 ¥10~30
C4 電解 25V 100μF ¥20~50
C5 積層 50V 0.1μF ¥10~30
C6 ¥10~30
C7 50V 4700 pF ¥10~30
D1 ダイオード LED 緑 3mm ラジアル ¥10~30
D2 汎用小信号 1S2076 アキシャル ¥5~10
D3 LED 赤 3mm ラジアル ¥10~30
D4 汎用小信号 1S2076 アキシャル ¥5~10
Q1 トランジスタ デジトラ RN1006 TO-92 ¥40~50
U1 電源 IC シリーズ 78L05 TO-92 ¥15~50
U2 汎用ロジック インバータ 74HC14 DIP14 ¥40~100
U3 マイコン PIC 12F675 DIP8 ¥80~120

・実装図
実装図

・組立

  特に難しいところはありません、背の低い部品から半田付けしてください。
  ダイオード・抵抗器・コンデンサー・トランジスタ・ICの順が良いでしょう。
  半田付けに自信がない場合、ICはソケット化した方が良いかも。
  フェイルセーフは考慮していませんので、電源配線のショートには十分な注意をしてください。

・動作確認

  実装図の12Vをキー Onで通電する配線に接続します。
  GNDはグランド配線に接続。
  TACはメーターのタコ信号に接続し、P/Uはピックアップコイルに接続してください。
  ※ピックアップコイルの配線は2本ありますが、どちらから取ってもたぶん大丈夫です。

  接続の確認が終わったらイグニッションキーをOnにします。
  その際、D3の発光ダイオードが短く3回点滅します。
  点滅が確認できればマイコンは正しく動作していますので、エンジンを掛けてタコメータが
  正しく動作するか確認してください。

・免責&お願い

こちらの記事を参考に作成した機器でいかなる損害が発生した場合も当方は関知いたしません。
製作に当たっては、自己責任のDIY精神を忘れずに実施してください。
また、当記事に対する質問にも一切答えません、判る人だけやってください。

作業代行などで部品代程度の金銭の受渡しが発生するのは構いませんが、これらの回路や
プログラムコードを使用して商売を行うことは認めません。

此方、製作代行や販売は一切行いません、正直めんどくせーです。

-2014/07/15日追記-
リンク先でこのようなトピックを見つけました。
他サイト様にご迷惑をかける結果になり申し訳ありません。
このページ自体、作ってくれと度々言われるのが嫌で必要な情報を公開したものです。
先方にも書いてあるとおり、実車も無い環境で現象を再現させたり、動作の検証をすることは
あまりにも労力が掛かりリスクが高いのです。
仕事として受注すれば、数十万円の工数じゃきかないであろう解析、設計、実装、検証まで
済ませてあるのですから、組み立てぐらい自分でやりましょうよ、お願いですから。



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